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新しい視点で難聴者を支援するぎふ難聴者協会

会報ながら(抜粋)


会報ながら120号(抜粋)平成30年2月

毛利静香さんの「文部科学大臣賞受賞」報告

特定非営利活動法人ぎふ難聴者協会 理事長 玉木 雅勝

この度、当ぎふ難聴者協会の会員で「岐阜市要約筆記派遣事務所」の業務主任を務める毛利静香さんが、平成29年度「障害者の生涯学習支援活動」に係る文部科学大臣表彰を受けられました。昨年の平成29年12月7日(木)に玉木と毛利さんとで、東京霞ヶ関の文部科学省まで、授賞式に行って来ましたので、ご報告いたします。

受賞までの経緯としては、まず昨年6月ごろ、ぎふ難聴者協会へ、岐阜県環境生活部環境生活政策課より、平成29年度「障害者の生涯学習支援活動」に係る推薦者を出してほしいという依頼文書が来たのが発端です。そこで、ぎふ難聴者協会より、毛利さんの「にこにこコミグッズ」を使っての一連の啓発活動(難聴者にいつでもどこでも文字提供を)を推薦しましたところ、それが、岐阜県で認められ、岐阜県から文部科学省へ推薦、そして受賞決定となったといういきさつがあります。
毛利さんは皆さんご存知のように、「特非)ぎふ要約筆記かがり火」の理事・事務局長としても活躍されていますが、私たち難聴者の立場に寄り添ったサポートを地道にされており、今回のグッズもその一環として評価されたもので、大変喜ばしく名誉なことであると思います。

表彰式当日は推薦者であるぎふ難聴者協会から玉木が同行し、表彰式は、文部科学省旧庁舎で、13時より始まりました。国歌斉唱・大臣(代理)挨拶・授賞式・代表挨拶。その後5団体の事例発表を聞きました。表彰を受けたのは、61件(14件が個人、47件が団体)、また学習関係14件、スポーツ関係21件、文化関係11件でした。また、活動内容を紹介するパネル展示もあり、毛利さんのものも提出されました。そして「こににこコミグッズ」を毛利さんが家から130個ほど持参し、「中途失聴・難聴者の理解」パンフレットと一緒に置いておきましたが、130個、すべて配付することができたとのことです。

以下、受賞に際して毛利さんからの言葉をご紹介します。

毛利静香/受賞できたのは、皆さんに支えていただけたからこそと、感謝の思いしかありません。2010年ごろ、百均ショップでふと思いつき、大ざっぱな私でも簡単にできると作り始め、「役に立つ」と思い込んで、皆さんにグッズを押し付けてきた活動でした。この4悪?の「お」(おもいつき・おおざっぱ・おもいこみ・おしつけ)が、継続することで「聴覚障がいの方とのコミは文字で」という願いにつながっていったのかも、と思います。
表彰団体の中に、香川県要約筆記サークル団体がありました。次回は「かがり火」で表彰を受けたいと思いました。次の目標目指して前進していきたいと思います。


会報ながら117号(抜粋)平成27年5月

岐阜市要約筆記派遣説明会の報告

特定非営利活動法人ぎふ難聴者協会 理事 水口 元一

平成29年4月2日(日)13:00より岐阜市民福祉活動センター大会議室において、実施主体(委託先)であるぎふ難聴者協会主催の「岐阜市要約筆記派遣説明会」が開催されました。参加者は、岐阜市登録要約筆記者22名、派遣業務主任の毛利から説明、質疑応答は水口が対応しました。以下、そのときの配付資料を掲載します。

1 岐阜市要約筆記派遣の流れ 
登 録
岐阜市登録証送付→要約筆記者登録手続→身分証発行
・合格証コピー・現況調査書提出

要約筆記活動
(1)利用者から「要約筆記派遣申請書」が、派遣事務所へ届く
(2)派遣コーディネーターより、要約筆記者・奉仕員へ「要約筆記派遣依頼書(兼引受書)」がFAX・メールで届く。又は、電話等で、都合を打診。
(3)要約筆記者・奉仕員が、派遣を承諾する。(FAX,メール、電話等の利用)
(4)派遣コーディネーターより、利用者と要約筆記者・奉仕員へ要約筆記派遣決定通知書」がFAX・メールで届く。
(5)指定日時・場所で、要約筆記活動を行う。
岐阜市要約筆記者・奉仕員活動報告書(日誌)に、利用者から、必要事項を記入してもらい、押印(利用者と要約筆記者)。

事後報告 
・月末までに、難聴者協会事務所へ郵送(厳守)
・岐阜市要約筆記者・奉仕員活動報告書(日誌)
・岐阜市要約筆記者・奉仕員活動月報告書(月報)

派遣費支払い
・年間4期に分けて、指定銀行へ振り込む。(7・10・1月・4月上旬)
・振込み連絡を、派遣事務所から、FAX又は郵便で送る
→振込み手数料の関係から、できるだけゆうちょ銀行でお願いします。

<連絡先>
特定非営利活動法人ぎふ難聴者協会 要約筆記派遣事務所 派遣担当:毛利静香
住 所  〒500-8323 岐阜市鹿島町7-15 大洞ビル3F 9
T・F  058-213-3429
E-mail gifusinantyo2011@yahoo.co.jp

2 岐阜市の現況
@登録者数
手書き要約筆記者  30名(内6名はPCも)
     奉仕員  12名
パソコン要約筆記者 19名(内6名は手書きも)
     奉仕員  11名  計66名
※現況報告の提出がなかった人数 手書き:8名  パソコン 5名

A平成28年度派遣数

・件数    78件(内パソコン14件)
・派遣人数 120名(者:手書き 64名 PC 14名)
          (員:手書き 34名 PC 9名)
・派遣費  563,700円
※H27年度は、88件 146名

B多い内容(派遣対象)

・社会参加  ・教育  ・医療  ・福祉 の順

Cその他
1)平日の派遣では、引き受け手が少ないし、限られている。
2)現況報告を出していただけない人や、返事がすぐ来ない人もおられて、悩むこともある。
3)パソコンは、連係入力
4)統一試験合格者数   手書き:3名  パソコン:2名
5)岐阜県への登録

3 要約筆記派遣のしくみ
(障害者総合支援法ー地域生活支援事業ー意思疎通支援事業:都道府県・市町村必須)
(1)派遣業務を行なっている所
ア 岐阜県:聴覚障害者情報センター  担当:尾関
・利用できるのは障害者団体のみ
(ぎふ難聴・県聴協・身障者協・盲ろう友の会 など)
・会議、研修会などの全体投影が多い。
イ 岐阜県:一般社団法人岐阜県聴覚障害者協会 担当:酒井
・県下全市町村が契約を結んでいる。
・依頼のあった市町村へ要約筆記者の派遣を行う。
ウ 岐阜市:特定非営利活動法人ぎふ難聴者協会へ委託
      要約筆記派遣事務所(若宮町) 担当:毛利
・利用者からの個人依頼:ノートテイク
・但し、利用(依頼)者が2名以上の場合は、全体投影
エ 各市町村 それぞれ(役所内の福祉課関係 又は委託事務所・社協など)

(2)事業関係費の出どころ

@公費(派遣)
 行政から「事業」として出る  ※資料:派遣事業要綱
A依頼者・主催者派遣
 利用する個人からの依頼・主催者からの依頼
 派遣費が異なる場合もある。
どんなとき?
1)派遣対象が、要綱に当てはまらない場合
  例:宗教、政治、営利目的、公益に反する など
2)障害者手帳を持たない個人や団体(上記ア以外)の場合
3)依頼側の予算で納めたいとき・又は予算が無い場合
4)その他
・岐阜市要約筆記者養成講座での情報保障(依頼者:講座コーディネーター海老名)
・謝金(4時間 者:6,500円・員:5,500円 2時間:3,000円) 協力を!

B無料ボランティア
 利用者が直接ボランティア依頼する
 「かがり火」は事業として行っている。(H27年度は60件)

(3)派遣依頼を受けたら
@日時・場所と駐車場・内容・持ち物・メンバーの確認
 →チームの場合は、リーダーを決める
A事前資料の入手
 →場合によっては、前ロール準備  
B前知識を得る
 →専門用語・話者や依頼団体などの背景知識
C当日は早めに行く
 →要約筆記のできる環境を整える
D主催者・依頼者との打合せはしっかりと
 →当日の関係者名・日程・資料の有無など
E終了後
 →ログやロールの始末
 →派遣日誌に、依頼者の押印をもらう
 →関係者でのふり返り(次回に生かす)
F派遣日誌と月報告書の提出
 →問題点等の連絡も        

4 ログの扱いについて  
※ここでは、ノートテイクした用紙、全体投影で通訳したロール、パソコン要約筆記をしたデータを「ログ」という。
(1)原則
公費派遣においては、ログは実施主体に帰属する。
 →利用者、その他の人には渡さない。
主催者派遣においては、ログは主催者に帰属する。
 →主催者の判断に従う。

(2)岐阜市における特例

・利用者が必要で、事前又は事後にログがほしいと求められた場合は、以下に従いログを利用者に提供する
<追記:無条件にログ提供を認めているわけでなく、当事者(難聴者)、話者(主催者、医者、教師等)、要約筆記者が合意したうえで、ログ提供が必要という場合に限る>
考え方:岐阜市の意思疎通支援事業は、個人への支援である。要約筆記により、聴覚障害者が、自立・社会参加・権利行使ができるようにする。
@利用者に要約筆記の特性を承知してもらう
ア 要約筆記は記録ではない(通訳行為)
イ 話し手のことばではなく、要約筆記者が話し手の意図を理解し要約したもの。
ウ 従って、ニュアンスや言語の意味するところが正確でない場合もある。
Aログを使用目的以外に使わない
ア ログの使用目的が、利用者の生きる権利に関わるもの
・医療 ・教育 ・利用者の責任遂行 ・財産 ・その他
イ 目的以外に使用しない。
・他の人に見せない(守秘義務) ・証拠や訴訟に利用しない
Bその他
ア 事前にログが必要と申し出があった場合は、派遣元から、要約筆記者に連絡する。(決定通知などで) 
イ 利用者が事前にログは不要とした場合でも、事後に必要な場合もある。その場合、利用者はその場で、要約筆記者に求める。要約筆記者が判断する。但し判断ができない場合は、派遣元に連絡する。ログは消去しないで保存する(派遣元へ提出)。
C参考
ア 要約筆記者養成テキスト下P61、14行目〜
「要約筆記者として登録すると、その地域の派遣事業の実施要綱のなかで活動することになります。(中略)要約筆記者としての倫理を全員が確認することが、事業の信頼性を高めます。」
イ 参考資料:全要研・全難聴からの通達文
注:実施主体としてのぎふ難聴者協会の立場としては、この通達文は一団体の考え方であるので、岐阜市の見解については表明しない。

<説明会の中での付け足しと質問内容>
1 付け足し:派遣に関する以下のことは、派遣担当:毛利が行う。
・前原稿や資料の有無、その内容等
・前ロールの元データ作成(PCにUSBメモリを挿入しないきまりの所などはPCデータではなく印刷物としてもらうときもあり、最終的にPCデータに直して、要約筆記者に送付する)
・派遣場所の地図、駐車場確保など
・派遣現場での機材や机の準備の確認
・その他会場の状況(要約筆記の場所、持ち物などで必要な物等)

2 質問:派遣に行った後に話し合い・反省を、サークルの例会などで提示し、みんなで考えあい次回につなげたいが、守秘義務との兼ね合いはどうか?
回答:もちろん要約筆記をする人には守秘義務がある。具体的にいつ・誰・どこが特定できないような形で、また守秘義務を理解している要約筆記当事者の集りで、話すことは構わない。利用者のために、いろんな例を話し合うことは大切。閉ざされた空間の中で外部に漏れないという条件がついているはず。

現場での問題点などは日誌にも記入し、派遣担当にもお知らせください。


会報ながら116号(抜粋)平成27年2月

巻頭言

特定非営利活動法人ぎふ難聴者協会 理事長 玉木 雅勝

年が明け、すでに二か月経とうとしています。たいへん遅ればせながら、新年おめでとうございます。二か月というと年の六分の一ですね。もうそんなに過ぎてしまったかと思うと、なぜか焦りみたいなものを感じます。よく聞く話では、歳を取ると月日の流れがとても早く感じるとのことですが、玉木もこの三月には60歳となり、そう感じているのも例外ではなさそうです。
さて毎日、とっても寒い日が続いていますが、皆さんお変わりありませんか。
この冬は、北海道や東北のみならず、山陰地方 とくに鳥取県の豪雪、また九州南部にまで雪が降るなど、例年に増して冷え込みがきびしいようですね。豪雪による被害に遭った方がたや、ご苦労をされていらっしゃる方がたに、心よりお見舞い申し上げます。
しかし反面、岐阜では会員の皆さんの大半がお住まいの地域で、それほどひどい積雪にもならず、とてもありがたく思っています。とくに玉木は、昨年11月に社内異動で、可児市の営業所勤務となり、毎日 バス、電車、スクーターを乗り継ぎ、2時間かけて可児市の北の端っこまで通勤しているので、雪が降らないのはホント助かります。
前置きが、とても長くなってすみません。そろそろ本文に入らないと・・。

昨年来、私たちが利用する「要約筆記」に関し、ある問題が惹起しています。
それは、通訳を受けたあとのログやロール、ノートテイクの用紙の処理についてです。
何故そんなことが問題になっているのかというと、私たちが通訳を受けたあとで、その書かれた用紙やログを読み返して確認したり、会議などを行なった時などに議事録を作成したりするのに、それを使うことがありますね。旧来の要約筆記奉仕員の制度の中でも、現行の要約筆記者の制度の下でも、ログやロール、用紙は消去、または廃棄と教えており、「通訳という性質上、発語された言語同様、その場で消えてなくなるものという考え方によって、副次的に生じたものは存在しないものであるから、そういう二次的利用をさせないように」という文書が、全難聴・全要研連名で全国の事業体に通達されたのです。しかも、「通訳を受けた内容を記録として保存または記録として利用したい場合は、要約筆記とは別の記録者を利用者が準備せよ」とのおまけまで付いています。
当協会は、活動本拠である岐阜市の「要約筆記事業」を受託しており、市から、この連絡を受け、この対応について話し合いをしました。その席で当事業の実施主体である市の見解をお伺いしたところ、「全難聴・全要研連名にしろ、一団体が事業体に対し、このような通達文を送ってくるなどありえない。これに対する見解など出す必要もない。岐阜市は、人権擁護・対人支援という柱のもと、こちらの考え方に沿って事業を行なっていく。」というお答えがありました。そして「利用者は難聴というハンディを背負っており、話を聞きながら、資料等を見ながら要約筆記を読んでいる。とてもメモをとれる状況ではない。さらに記録者を準備せよとは言えない。」という理解も示されました。
私たちも、「要約筆記は通訳であるから、発語された言語同様、その場で消滅するもの」という考え方はわかります。しかし、私たちは書かれたものを読んで、考え、行動します。
であれば、書かれたものに責任を持つのが当たり前であり、その場の話を書いただけなどといえるスジのものではないはずです。ログやロールの議事録作成のための転用にしろ、「その場の話を外部に流出させないように・・という守秘義務遵守、また発言されたものはその著作権上、発言者あるいは会議等の主催者に帰属する」のために禁止していますが、協会が理事会や総会などの会議を行なった際の守秘義務など、要約筆記者がそのモラルを守って他言しさえしなければ、どこにも問題が発生するものではないはずです。著作権等についても、会議の出席者は、全員そこにいるわけですから、すでに共有していることになります。
ノートテイクの用紙にしても、例えば病院の受診に利用した際など、病状説明や出される薬の再確認をしたいことありますね。利用者は受診しながらノートを読んでいるのです。メモなどとれませんし、記録者を同伴するなど とてもできませんね。そこで書かれたノートの提出を求めるのは、権利擁護や対人支援などという観点ではなく、自分の生活や生命を守る当たり前の行為でしょう。

昨年、実施した「聞こえのサポートフェア」でも話題になりましたが、参加者が少なく、あまり意見が聞けませんでした。ぜひ、皆さんのご意見をお聞かせください。
最後に、皆さんのご健康とご多幸を祈ります。             合掌

投稿:要約筆記のログの扱いについての私見

<かがり火会報より転載>
会員:毛利 静香(特定非営利活動法人ぎふ要約筆記かがり火 理事)

★難聴者の声
「難聴者の会議の議事録を作成したいけれど、要約筆記者や要約筆記派遣元から、『全要研の考えなので、ログは渡せない』と言われ、困っている。もう一人議事録作成係を頼むのも大変だし、録音したって聞こえないし、要約筆記の画面をビデオに撮ろうかという相談もしているの」
今年になってから、他県の難聴者の何人かから、こんな話を聞くことが度々ありました。私は聞く度に、あまり真剣に考えず、こう返事していました。
「気持ちは分かるけれど、要約筆記者養成テキストにもロールは発言者や主催者に帰属し、守秘義務があると書いてあるし、第一そのテキストは、全要研と全難聴が出しているから、 難聴者の皆さんも承諾しているってことでしょ? 自分たちから困った状況に追い込んでいるとしか思えない」
平成28年度も半ばを過ぎたころ、他県の難聴者が、全難聴か全要研に、「ログの扱い」について、抗議文か要請書を出されたとかの噂を耳にしました。
私は奉仕員時代から、守秘義務の名の下に、「ログやロールは事後処分する」と教えられ、いわば洗脳された形でしたが、難聴者の方達からの「ログ利用の要望」は、理解できるものでした。活用目的が、純粋で、悪用されるわけでないということもあります。
そして、11月7日付で、全要研と全難聴から以下の通達文が、ぎふ難聴者協会に届きました。これは全難聴便りにも掲載されました。
これを読んで、いくつかの疑問が湧きました。そこで、今回会報に投稿し、私の考えを述べるとともに、皆さんと一緒に考えてみたいと思い、まとめました。

★全難聴・全要研からの通達文 (以下「通達文」といいます)
要約筆記利用時のロールや用紙、ログの扱いについて
一般社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
特定非営利活動法人 全国要約筆記問題研究会
 
 要約筆記利用でのロールや用紙、ログの扱いについて、一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(全難聴)と特定非営利活動法人全国要約筆記問題研究会(全要研)は下記のように統一した見解をまとめました。これは、「要約筆記者養成カリキュラム(障企自発0330第1号)に基づく要約筆記者養成事業において指導されている内容と同一です。関係する皆様の本見解に対するご理解と要約筆記事業の推進へのご協力をお願いいたします。
               記
1.要約筆記は音声言語を書記言語にする通訳行為です。したがって、言語通訳同様その場で完結するもので、通訳終了後は音声と同様に消えたものとお考えください。
2.要約筆記利用に際してログは残さない設定をします。ロールや用紙は、通訳行為の結果として生じたものであり、二次利用のできるものではありません。
3.要約筆記された内容を利用者が記録として残したい場合は、要約筆記とは別の記録作成を準備してください。
要約筆記者の養成・派遣は障害者総合支援法の意思疎通支援事業の1つとして実施されています。当該事業はもとより、今後、障害者差別解消法の合理的配慮として要約筆記の利用が大きく広がっていきますが、その場合でも派遣される要約筆記者は障害者総合支援法における意思疎通支援事業の枠組みで養成されています。したがって、いずれの制度の下においても、要約筆記利用におけるロールや用紙、ログの扱いに変わりはありません。
 


★この通達文をめぐる私の疑問
@この通達文は、全難聴と全要研の見解に過ぎない。地域支援事業は、地方自治体が行うもの。一団体の見解が、行政に介入できるのか? なぜ、厚労省からの通達文ではないのか。地域生活支援事業は、厚労省社会・援護局障害保健福祉部長通知によるもの。
A『これは、「要約筆記者養成カリキュラム(障企自発0330第1号)に基づく要約筆記者養成事業において指導されている内容と同一です。』とあるが、この「障企自発0330第1号」は、ご存知のように、カリキュラムの時間数・教科名・目的・内容(項目)が示されているのみで、「ログの扱い」などという内容は見あたらない。「指導されている」とは、どこからの指導なのか。そしてこの公文書には、実施主体は「都道府県」(政令都市・中核市を含む)とあり、実施主体は、全難聴・全要研ではない。

★全要研・全難聴の「要約筆記者養成テキスト」での矛盾
第11講チームワーク テキスト下P41にログの問題が書かれている。
以下 下P41 【3】振り返り 1.事後処理 より
「現場が終了したら、関係資料は主催者に返却します。手書き要約筆記では書き終わったロールや用紙についても返却します。これはその場の責任者である主催者に、書かれた情報の処理を委ねるからです。パソコン要約筆記の場合は、主催者とともに、入力用・表示用ともパソコンにログが残っていないこと、事前入力した資料ファイルを消去したことを確認します」

ここで気になるのは3点。
@「手書きロールは、主催者に処理を委ねる」とあります。つまり、主催者が、「会議の参加者に、ロールを渡して議事録作成の一助にしましょう」と言えば、それで難聴者の希望は叶うわけです。つまり、全難聴・全要研が処理について口を挟むのはおかしいわけです。
A手書きとパソコンの処理の仕方が異なっています。手書きロールは、主催者に委ねるなら、ログも同様にするべきです。なぜ、ログだけ、その場で消去するのでしょうか。矛盾しています。ログを消去するという根拠が示されていません。
B通達文では、テキストでの「主催者に処理を委ねる」が無視され、手書きもパソコンも同じ扱いになっています。

★毛利作成の寸劇(喜劇・悲劇)
(これは創作ですが、通達文に忠実に従った結果と思われる例w)
その@
初めてノートテイクを利用して、腰痛を診てもらった難聴者のKさんと、要約筆記者の毛利との会話。場所は、診察が終了して、待合室で。
K/あの〜、先ほどの私の腰痛の病名、「股関節なんとか」って。病名忘れてしまったし、毎日の生活で注意することを、4つほど言われたけれど、2つしか思い出せなくて…。もう一度その用紙、見せてもらえませんか?
毛利/えっ、とんでもない。これは話し言葉と同じで、消えていくもの。記録ではないのでお見せできません。(と、用紙をビリビリっと破る) そんなことなら、もう一人記録係を連れて、再度診察に行かれたらいかが?

そのA
難聴者数人と毛利を含む要約筆記者数人を交えた会議で、パソコン要約筆記で情報保障を行なった。会議終了後、毛利がパソコン要約筆記の席に行き、難聴者に分からないように小声で、しかし強く指示した。
毛利/ログを消す設定になっている? ログを消しておくようにね。私、主催者じゃないけど、要約筆記の役員で、ログの扱いはよく知ってるのよ。

★ネットからの情報
「要約筆記のログの扱い」で検索するといくつかヒットします。
@ ログに著作権はあるか
回答:ログは著作物ではありません。『主観の入らない事実の記録』は著作物とは認められないとするのが現状の法律の解釈です。著作物でない以上、「著者不明」という解釈には意味がありません。ただし、主観が入れば話は別で、同じ事実の記録であっても、『その記録に主観を入れた人』が著作権を主張すれば著作物となりえます。ログに対して発話者が著作権を主張すれば、ログは著作物になります。ただしその場合には、発話者と記録者の間であらかじめ話し合いが必要となり、特になんの打ち合わせもなかった場合には、一般的な解釈に従って『ログは著作物ではない』という判断を下す事になります。
(毛利独言:じゃあ、会議の著作権はそこに参加した難聴者なのかなあ。だったらログをもらってもいいのでは。)
A条件付きで、ログを渡している要約筆記団体はいくつもある。
例)活用する内容
・本人の健康や命に関わること
・高額商品や不動産売買など本人の財産に関わること
・その他必要性が認められること 等
例)活用条件
・要約筆記にもミスや誤りがある
・ログをそのまま転用しない
・目的以外に使用しない
・他の人に見せたり渡したりしない 等
その中から「パソコン要約筆記なごや組」のホームページに掲載されている「ログの扱いについて」の一部を紹介します。
『聴覚障害者の方同士の話し合いの場合、リアルタイムに流れる字幕だけみて話をしていると、一部読み損なったり、お互いの発言の意図を取り違えていたりすることがある。また、入力者の力不足から画面のスクロールが速くなり過ぎて、読めないものを出してしまうことも珍しくない。このため、後から内容を確認させてほしいという声がある。
情報保障を依頼した側には、どのような出力が行なわれたかを確認する権利がある。
しかし、主催者側の人間が情報保障している画面を絶えず監視し続ける、あるいはビデオ等で記録し続けるという確認方法は人手や機材が必要で、現実的ではない。聴覚障害者が記録作成のために、録音テープから自ら文字起こしをするのは難しい。
これら諸般の事情に鑑み、なごや組では
・依頼者から申し出を受けていて、話し手の同意も得ている。(ログには、話者も著作権を持ちます)
・パソコン要約筆記では要約も入るし、打ち手の聞き間違い、主観による解釈も入る。ログは「情報保障した内容を記録したもの」に過ぎず、「話された言葉を記録したもの」ではないという点を理解していただき、記録作成等にあたっては、あくまでも参考程度に留めていただく。
以上の二点をクリアしていただいている場合のみ、依頼者にログを渡しています。依頼者以外の人間には渡しません。』

 ネットからの資料については、皆さん検索してみてください。

★或る行政担当者のことばから気づいたこと
担当者/毛利さん、全要研・全難聴から、ログの扱いについての文書が、役所へ送られてきたけど、知っている? こんなの、一団体が、なんで行政に送ってくるんや。こんなのに、行政としての考えを言うほどのものではない。これは、俺の考えだけど要約筆記は聴覚障害者の支援、自立を助けるのやろ。要約筆記には、ミスや間違いもある。証拠や訴訟の資料には使えないということを承知してもらった上で、目的だけに利用するんやったら、フィフティフィフティ。
(この人、何も調べていないのに、どうしてこんなにすっきり言えるの)と内心感動しながら、そのとき私の中で見えてきたものがありました。
 意思疎通支援事業を実際に行なっているのは行政・実施主体です。ログの扱いについても理解して実施してもらう相手は、行政・実施主体です。全難聴・全要研の考え方は、一団体の一見解にすぎません。当事者・利用者である難聴者が必要性を行政・実施主体に訴えて理解してもらい、実施してもらうことが第一です。

そして私は、要約筆記者カリキュラムが策定された年に、埼玉で行われた第1回指導者講習会に行ったときのことを思い出しました。その講習会の始まりの挨拶で、カリキュラム策定の大沼直紀座長(当時東京大学先端科学技術研究センター客員教授)が言われました。
「カリキュラムはできましたが、テキストは決まっていません。テキストは、講師の皆さんが作っていってください」
「専門性は大切。しかし、ともすれば他の領域とぶつかったり、或いは独断的になったりする危険性があるので、気を付けてほしい」と。

 カリキュラムができて6年、全要研の統一試験を採用する実施主体が増えていますが、自ら努力をしないで、全要研に安易に頼りすぎているのではないかと思います。全要研の養成テキストを使わず、統一試験を採用していない地域もあるはず。そこでは、要約筆記に対する考え方が全く全要研と同じではないはず。
ちなみに埼玉では、「視覚障害者には、催しの録音テープ(紙に替わる情報伝達手段として)、必要があれば、後ほど提供することも望ましい」としています。
 こうした見解をもつときに、自分の立ち位置(視点)が異なると、また違う見解が出てきます。
「要約筆記は対人援助であり、聴覚障害者の権利擁護」の意味を再考したいと思いました。

投稿:「要約筆記のログの扱い」その後

会員:毛利 静香

「かがり火」会報NO18に、私見として表記の投稿をしました。
その後、大学・法学部の先生とお話したり、文字通研の研修会の内容を聞いたり、他県の難聴者協会の情報を受けたり、更に知識を深めました。
今の段階でのまとめとしては以下のようになります。
(ここでは、手書きの要約筆記をしたロールシートやノートテイク用紙、パソコンの入力後のログを含めて「ログ」と表現します。)
『ログを利用者に渡さないという考え方は、全要研としての一見解としては納得できるものである。しかしこれは一団体の見解にすぎないので、ログの扱いについては実施主体の考え方に基づいて進めるべきである。またもしログをもらえない場合には、障害者差別解消法の「合理的配慮」に該当するので、実施主体或いは行政指定の機関に申し出る。この場合、合理的配慮を提供することで大きな犠牲や代償は無いため、ログを渡せる方向にするべきである。』

補足1:前号に投稿した後、全要研要約筆記養成テキスト下P61、14行目に次のような一文を見つけた。「要約筆記者として登録すると、その地域の派遣事業の実施要綱のなかで活動することになります。(中略)要約筆記者としての倫理を全員が確認することが、事業の信頼性を高めます。」

補足2:聴覚障害者である要約筆記利用者がログを入手したいという理由は、どんな場合かと言えば、例えば受診での診断結果や処方、子どもの教育や進路指導、会議の議事録作成担当の責任遂行など、本人の生活や命に関わる場面が多く、人として生きる権利に関わる場面である。まさに聴覚障害者の社会参加や自立、権利と責任の場で必要とされることばかりある。ログを訴訟や他人の誹謗中傷などに使用するわけではない。

補足3:ログを渡すには「要約筆記」の特性を理解してもらう。例えば、要約筆記は決して完璧ではないこと(全文通訳ではなく要約筆記者によって、話し手の意図を再構築したもの・話し言葉ではなく書き言葉であるなど)を理解してもらった上で、目的以外に使用しないことを条件に、ログを提供する。

 岐阜市では、実施主体であるぎふ難聴者協会が、ログの扱いについての提言(或いは見解)を、岐阜市登録要約筆記者や奉仕員に伝えることになっています。また現在でも、病院などの派遣では、利用者の申し出によってログを提供しています。
さてこのログの扱いについては、更に新しい情報を知りました。
 それは、「聴覚障害者にとっての記録の必要性を定義する」必要があるという考え方です。私達は奉仕員時代から、ロールは破棄すると洗脳され続けてきましたし、疑問も感じませんでした。その当時は手書きであり文字量も少なく、利用者もスクリーンを見ながらメモしても、話に追いつけたのでしょう。ところがパソコン要約筆記になり、文字量(情報量)が増え、メモが追いつかなくなった。(余談ですが、岐阜市のパソコン要約筆記は連係入力で、80〜90%の話し手のことばが表出されます。「実際にはこんなにも沢山話されているのですね」と感動された聴覚障害の方がいらっしゃいました。)
 つまり技術や方法が変わり、保存もメモリさえあれば簡単にでき、それを自分のパソコンで再編集できるわけです。また、議事録作成は単に文書を作ればよいだけでなく、会議の内容を自分たち団体の活動に反映していかなくてはなりませんので、とても重要なものです。10年以上前の聴覚障害者とは違う環境の変化に対応できる、新しい考え方や支援のあり方が出てくるのが当然だと思います。新しい形の、そして実際に即した「意思疎通支援事業」を考えて行く必要があると実感しました。
 また、こうした取り組みは、全国の中途失聴・難聴者団体が一致して取り組んで行く必要があります。或る難聴者協会誌に、「ログの扱い」の全要研・全難聴からの通達文が掲載され、その末尾に「大切な情報は、通訳を受けながらメモを取るように心がけましょう」という呼びかけが書かれていました。この団体は、「ログが必要」と感じたことのない活動なのでしょうか。別の協会誌では、通達文を出すに至った経緯の中で、「一部の地域で恣意的にログを求め、権利を主張するところも出ており」と難聴者協会理事長自らのことばで述べてあり、中途失聴・難聴者間の温度差を感じました。
 まず当事者自らが、困っていること(具体的な事実)・必要なことを声を発していくこと、その声はバラバラだったり少数だったりではなく、全国の難聴者団体に呼びかけ、中途失聴・難聴者全員で権利を自分のものにしていく必要があるのではないかと思います。

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