口腔と体

口の中というものはさまざまな働きがあります。
歯は食べるため、唇は食べたものをこぼさないため、舌は食べたものをノドに送り込むため。そして動物と異なり会話するためには欠かせない場所です。また、歯の見た目を気にするのも人間の特徴でしょう(動物が歯の見た目を気にしているのかはわかりませんが)。
そうした、食べる願望、会話する願望、見た目の願望を少しでも叶えるためにお手伝いをするのが歯科だと言えるでしょう。
とはいえ、歯を含め口の中というものは体と別々にあるものではなく体の一部ですので、全身と分けて考えることはできません。口の中の病気は全身の病気に繋がることがあります。逆に全身の病気が口の中に現れることもあります。

高血圧

糖尿病

心臓病

肝臓病

腎臓病・透析

喘息

妊婦・授乳

アレルギー

骨粗鬆症・前立腺癌

人工関節

心身症

虫歯

歯磨き
歯磨きの時間がわずかだったり、みがいたつもりでみがけていないことがあるため、少なくとも5分程度は力をかけすぎないようにして歯磨きしてください。朝など時間が取れないようでしたら、夜寝る前にしっかりと歯磨きすると良いです。また、酸性の強い飲食物を取った後は歯が溶けやすい状態ですので、あらかじめ水ですすぐなどするのが良いでしょう。

フッ素(フッ化物)
歯ブラシだけでの歯磨きでは完全な虫歯予防はできないと言われてきています。フッ素は齲蝕予防のために広く利用されているもので、現在市販されている歯磨き粉のほとんどにフッ素(フッ化ナトリウム)が含まれているので、歯磨き粉を少量使用して磨きましょう。
フッ素は子供だけでなく、歯周病によって露出してきた歯の根元が虫歯になるのを予防するのにも有効です。 なお、イエテボリ法というのもありますが、これはフッ素入りの歯磨剤で2分ほど歯磨きをしたあと、少しの水だけで軽くうがいし、その後は1時間程度はうがいを控えてフッ素の効果を促す歯磨き法で、フッ素利用の一つです。

キシリトール
最近のガムによく含まれている糖分。砂糖と違って細菌(ミュータンス菌)の栄養にならず、かえって消耗させるため、細菌の増殖を抑える働きがあると言われています。50%以上のキシリトールを含むものが良いとされています。
また、ガムは咬むことで唾液分泌を促すため、ガム自体に脱灰した初期の歯の石灰化などの効果が期待されます。ただし、これはあくまで補助的な齲蝕予防法ですので、過度の期待は禁物です。

プレバイオティクス
腸に働きかける乳酸菌飲料と同じように、口腔内の細菌のバランスを変え、歯垢のねばねばや口臭の改善をはかろうとする補助的なケア方法で、乳酸菌(ラクトバシラスサリバリウス)を配合したタブレット(オーラルヘルスタブレット)などが市販(通販)されています。2、3か月続けて使用すると、しばらく口腔内の乳酸菌は維持されるようです。

重曹(炭酸水素ナトリウム)
料理や台所の洗い物から胃酸過多の薬(制酸剤)など、広く使われているものですが、重炭酸塩自体は口の中を中和させる唾液の成分でもあり、水に入れると弱アルカリ性になるので、虫歯予防、歯の再石灰化、口臭抑制を期待してのうがいや、着色除去のための歯磨きにも使われています。
うがいの場合は500mmに3g=小さじ一杯弱(0.6%溶液)にして、ぶくぶくうがいすると良いと言われてきていますね。なお、重曹は塩味の元となるナトリウムが入ってるので、そのままだと塩辛いですけど、この濃度なら塩水かな???というくらいで、それほど気にならない味です。

この濃度の理由が書かれているサイトは不明で、その原典は正直知らないのですが、物を食べたり飲んだりした後の唾液(刺激時唾液)の中の重炭酸塩は多いと60m mol/L、重炭酸塩のmol質量は61g/molなので、

刺激時唾液の重炭酸塩(HCO3-) :(60/1000×61)g/L = 3.66g/L
6g/Lの重曹水中の重炭酸塩(HCO3-) :(61/84×6)g/L = 4.36g/L

つまり、この重曹水は、食べているときに出る唾液よりもちょっと濃い、ってところでしょうか。唾液の働きは複雑なので、単純に考えてはいけませんけど。
ちなみに口内炎のうがい薬ハチアズレはほとんどの成分が重曹で、顆粒2gを水100mlに溶かして使うので、大雑把に言えば口内炎の有効成分(アズレンスルホン酸ナトリウム)を含んだ2%重曹水です。

歯磨きについては、重曹の粒によって歯の着色などが除去できますが、使いすぎると歯が削れてしまうおそれもあるので注意した方が良いです。さらにこれで長く歯磨きしていると歯ぐきがひりひりしてきます。
重曹には塩分(ナトリウム)がありますが、うがいで使う量ならそれほど気にすることはないでしょう。使うなら食用の重曹で十分。ちなみに、この重曹を含む歯磨剤も作られています。

歯周病

歯周病(歯周炎)は口の中の細菌によって生じる生活習慣病です。
歯肉の発赤、腫脹、出血といった歯肉炎の症状が進むと炎症が骨に及び、歯が動いてきたり、歯肉から膿が出たりしていき、重度となって咬むことができないくらいぐらぐらになったり他の歯や骨に悪影響が起こる可能性が出てきたりすると抜歯になります。
歯周病が進行しないようにするためには、口の中の細菌が増えないように適切な歯磨き(プラークコントロール)が大切です。歯周病の治療は、清掃指導と歯石除去、歯肉と歯の間の溝(歯周ポケット)の中の清掃が基本で、改善が得にくいときは外科的に歯肉をあけて歯根の表面を掃除します。ごく限られた部分の骨が減っているだけの場合は、骨の再生を促す外科的治療が行われることもあります。

Tooth Wear

「歯に衣」だから、「歯に衣着せぬ(ずけずけ言うこと)」の反対でオブラートに包んで言うこと? いいえ、違います。
これは歯(Tooth)がすり減る(Wear)というもので、虫歯、歯周病と並ぶ歯科疾患の一つです。

Tooth Wear
種類症状
咬耗症咬むことにより歯の噛み合わせ部分が削れていく
磨耗症不適切な歯磨きや、物を口に加える仕事で歯の表面が削れる
アブフラクション歯への強い力(くいしばりなど)により歯と歯茎の境が欠けていく
酸蝕症職業病の他、酸性の飲食物を長期にわたって取り続けると歯が溶ける
このうち、特に無意識的なくいしばりによるアブフラクションと飲食物による酸蝕症は注意が必要です。

くいしばりの強い方は、上下の歯同士がお互いを擦り合い、長期にわたると歯の頭が削れてしまいます。何もしていないときは普通、上下の歯は隙間があって触れ合っていないので、もし上下の歯が触れ合っていることが多いなら、それは歯や顎関節に影響を起こす可能性があります。夜中無意識のうちにくいしばっていたり、歯ぎしりしていたりするのも影響を起こします。顎の筋肉の緊張によるくいしばりは顎関節症の原因の一つとなり、歯ぎしりは上下互いの歯を削ってしまいます。寝ているときは予想以上に顎が動いて、上下の歯がこすれ合っていることがあります。また、そうした歯にかかる力によって、歯と歯ぐきの境目のもろい部分(エナメルーセメント境)にひずみが生じて欠けていき、その部分だけがえぐれてしまうことも少なくありません。

酸蝕症は、特殊な職業でなければ酸性の食事(昔、栄養学で言われていた酸性食品とかアルカリ性食品とかではなく、それ自体のpHのことです)によるものです。飲食物では、柑橘類の他、炭酸飲料、ジュース、お酒、お酢など、多くの飲み物はpHが高めで、ほとんどが歯が溶け始めるpH5.7以下です。もちろん口の中には唾液があり、酸性の飲み物を飲んでも1分ほどで酸性になった口の中は改善し、10分もしたら唾液の状態は元に戻るため、一時的な飲食ですぐ生じる訳ではないので、極端に心配することはありません。ただ、歯がまだ未熟な学童期の歯は溶けやすく、また口の中がネバネバするなど口腔乾燥症の疑いのある方は唾液が少なくて唾液の効果が得にくいため、絶えず長期に炭酸飲料など飲み続けたりしないよう、気をつけましょう。

歯科とX線

X線とは何でしょう?
X線とは電磁波です。では電磁波って何でしょう? 電気と磁気のある空間を伝わる波で、物質の中の電子をはじき飛ばす(電離させる)性質のあるものです。
う〜ん、よくわかりませんね。強引に言うなら光の一種で、とても短い波の光です。

電磁波


さて、このX線ですが、原発の放射線と医療で使われているX線(放射線)との違いは何でしょう?
原発の放射線は元々放射線を出す物質(放射性物質)から自然に出てくるものです。こうした物質がX線を出すのは誰にも止められません。いつも元気で活発なので相手してると振り回される訳です。
一方、医療のX線は、外から物質(主にタングステン)にエネルギーを与えて初めて出てくるものです。普段おとなしいのに、お酒飲んだら陽気になったって感じ。でも、こちらはすぐに冷静さを取り戻します。

歯科用のX線は通常一回、0.01〜0.04mSv(ミリシーベルト)です。ミリシーベルトというのは物質にエネルギーを与える放射線の量で、このエネルギーが高くなると、悪い影響が出てきます。人だって、ちょっとした気遣いは心地よいですが、過剰なちょっかいは不快ですね。

ところで、自然放射線は、世界平均2.4mSv、日本平均2.1mSv。そのうち1/2は空気中のラドン、あとは食べ物(の中のカリウム)と地面と宇宙から1/6ずつ浴びています。楽観的になるのは禁物ですが、放射線を気にしすぎるとカリウムの多いバナナなんて食べられません。東京ーニューヨーク間往復で0.2mSvなのでアメリカにも行けません。アメリカには行かなくても、関東と比べて大地からの放射線量の多い関西にも行けません。

なお、妊婦の場合で胎児に影響が出始めるX線量は100mGy(=100mSv)、それ以下だとほとんど影響が出ることはありません。胎児への放射線への影響は多くみて成人の10倍程度ですが、歯科で受けるX線は腹部から離れているため影響はかなり少なく、さらに歯科ではX線防護エプロンで体をガードしますので、胎児にはほとんど影響しないと考えられます(歯科でX線防護エプロンを着けるのは、被曝の問題よりも、患者さんの心理的な不安を除く意味合いが強いです)。歯科だけでなく医科としても、もし過剰に医療放射線を心配して診断に必要なX線検査をせずに病気を見逃したら、本末転倒でしょう。
ともあれ、医療の放射線は必要だから使う、でも最小限にとどめる。これが基本ですね。