竹尾久之のデザインノート あらすじ
『竹尾久之のデザインノート』解説文
― 陶壁面レリーフデザイナーの第一人者 ―
本書『竹尾久之のデザインノート』は、日本における陶壁面レリーフとタイルデザインの歩みを、一人の作家の視点から克明に記録した創造の記録である。
著者・竹尾久之は、国内屈指の陶磁器デザインコンペティションにおいて金賞、銅賞を受賞し、数多くの入選歴を重ねてきた実践的デザイナーである。金沢美術工芸大学で陶磁器デザインを専攻し、素材、釉薬、成形、焼成に至るまで陶芸の本質を体系的に学んだ。卒業制作「よじれレリーフ陶板」では、永遠に連なり続ける無窮の世界をタイルという形で表現し、見る者の内面に静かに問いかける造形を提示した。
本書の最大の特徴は、学生時代から現在に至るまで描き続けた200冊を超えるスケッチブックを基盤に構成されている点にある。発想の断片、線の迷い、構造の探求、完成への確信。その思索の痕跡がそのまま収められている。度重なる引っ越しにより多くのスケッチブックは失われ、腐敗し、廃棄せざるを得なかった。現在残る貴重な冊子から抜粋されたページには、汚れや傷みも見られる。しかしそれこそが、現場とともに生きた時間の証明である。
スケッチとともに掲載されるのは、実際に制作され全国で施工された陶壁面レリーフ、外装・内装・床タイル、陶板作品、陶芸作品の写真群である。設計図がどのように現実の空間へと昇華したのかを視覚的に辿ることができる構成となっている。
なかでも特筆すべきは、滋賀県物産デザイン展において、滋賀県内の全生産デザインの中から大賞を受賞した「バリエーションタイル」である。陶芸という枠を超え、地域産業全体の頂点として評価されたこの受賞は、竹尾のデザインが単なる意匠ではなく、社会と結びついた産業的価値を持つことを示している。
竹尾のデザインは、一般的な“形を描く仕事”の範囲にとどまらない。原料の選定、土の練り、釉薬の調合、成形、焼成、生産工程の設計、さらには施工現場での打ち合わせまで一貫して担ってきた。工場の生産ラインを考え、新技法を導入し、必要とあれば工作機械そのものを設計・製作する。土練機の口金、金型、切断機の工夫、さらには当時としては先駆的であったテフロン樹脂を用いた成形技法によるレリーフタイルの開発。これらは、日本のタイル制作史の中でもきわめて独創的な試みであった。
著者の代表作「スカイレーション」は、歩行者の視点移動によって色彩と陰影が変化するレリーフタイルである。右から正面へ、さらに左へと移動するにつれ、壁面は動的な表情を見せる。建築空間に時間と動きを与えるこの作品は、全国各地に施工され、竹尾デザインの象徴となった。
また、長年暮らした滋賀の風土、とりわけ琵琶湖の波、山並み、川の流れは、彼の造形の根底に流れている。自然の律動を焼き物という永続素材に封じ込めること。それが竹尾の一貫したテーマである。
本書終盤には、現在の住まいの玄関アプローチを自ら設計・制作・施工した床タイルの実例も収録されている。デザインし、焼き、敷き込む。その全工程を自らの手で完遂する姿勢は、机上の理論ではない実践の証明である。
さらに竹尾は、本名である陶芸家・デザイナーとしての活動に加え、シンガーソングライター「ジャンゴタケオ」としても創作を続けている。造形と音楽という異なる分野を横断しながら、根底にあるのは常に“創造”である。
本書は単なる作品集ではない。これは、原料から空間完成までを貫く総合デザイン思想の記録であり、芸術と産業を結びつけてきた実践の証言である。200冊を超えるスケッチの集積は、一人の作家の情熱の量を物語る。
竹尾久之は語る。
デザインとは、要望に応えること。
制約の中から最適解を導き出すこと。
そして、形を生み出す仕組みそのものを設計することである。
その半世紀に及ぶ創造の全貌が、ここにある。