ゴールデンウィーク!!

 

 

誘ってきたのは、つばさのはずだった。
 「GWは、映画を見に行こう!映画!!」
「映画はいいけど・・・あれ、見たら後悔するっていうのがウリの怖い映画じゃないのか?」
「う〜んそうだけど、CMで見た感じではサイコスリラーっぽいし・・・私、羊たちの沈黙とかハンニバルは好きだから、きっと大丈夫だよ!珪は、原作読んだ?」
「いや、まだだけど」
「じゃあ、決定!!」
「あぁ、分かった」
 ・・・そうだ、確かつばさが最初に行きたいって言ったんだ。
なのに、この怖がりようは・・・いや、それよりもこの状況はどうすればいいんだ?
 映画は、CMでは予測できなかったエイリアンもので、たまたま墜落したUFOから出てきたエイリアンが病原菌を撒き散らし、挙句に人や動物を食べてどんどん森を侵略していくものだった。
 確かにグロテスクだ。
 ちょっと前の段階までハートフルなものかと思ったのに・・・。
 そしてつばさはというと怖がって、エイリアンが食いつこうとする場面になると直視できないでいる。
 それだけなら仕方ない。
 困っているのは、直視できないつばさが俺の左腕にしっかりとしがみついて、今にも膝の上に倒れこんできそうなこの状態だ。
 音楽が穏やかなものに変ればまた姿勢を直してスクリーンを見つめるのだが、手はしっかりと握って離さない。
 ・・・つばさってこんな怖がりだったんだ。
 遊園地のお化け屋敷もバンジ−ジャンプも、ジェットコースターも怖がらないのに。
 羊たちの沈黙やハンニバルは好きだって言ってたし。
 ・・・それよりもつばさは気づいているだろうか、やっと手を繋げたことに。
 この際理由はどうでもいいかな、と言う気さえしてくる。こんなにも寄り添ったのは初めてだ。
 エンディングが近い。
 しがみついてくるつばさをどうしてやればいいのか分からないまま、自由な右手が落ち着かない。
 何気なく、周りを見回した。
 人はあまり入っていない。
 受付のところに人はたくさんいたけれど、子供連れが多かったからアニメに流れたんだろう・・・。
 入っているのはカップルがほとんどで、でもつばさほど怖がっている女性はいなかった。
 自分たちの周りに人がないことを確認して、落ち着かない右手をつばさの頭の上にのせた。
 ゆっくりと頭を撫でてやる。まるで、外敵に脅える猫のようだ。震えながら、小さくなっている。
 少し、笑った。

 

 「映画、面白かったか?」
 あまり直視できていないことを知っていながら、尋ねてみる。
 「怖かった!!あんなに怖いと思わなかった!!」
目に少し涙を浮かべて力説するつばさがかわいくて、少し笑った。
 「珪は、ずっとスクリーンを見ていたけど怖くなかったの?」
「あぁ、つばさほど怖がりじゃないから」
 いって、思わず笑い声が漏れた。それをきっかけにして、止まらなくなった。
 「そんなに笑うことないでしょ!!本当に怖かったんだから!!」
「あぁ、分かってる」
「もう今度から好んで怖い映画を見るの止める!!」
 ・・・好んで怖い映画を見ていたんだ。
 そう考えて、またおかしくなった。
 「ひどいなぁ、珪は・・・。なんかもう、私ってヒアリングがこんなに得意だったんだぁって思っちゃったよ」
「錯覚だろ?」 
ひどいよぉと呟きながら、つばさも笑いだした。
 「でも、お前怖がりなんだな、今日の発見。面白かった」
「珪は、本当に怖いものないね。そのうち珪が怖がるようなもの、絶対見つけるから!」
「楽しみにしているから。・・・夕飯、食べにいくか?」
 可笑しさが止まることはないけれど、ひとしきり笑ったところで、つばさの顔を覗き込んだ。
 「うん!行く!!」
「じゃあ、行こう」
 言って、ちょっと躊躇いながらつばさの手を握った。
 ぎゅっと握り返したその手にどきどきしながら、映画館を後にした。