早田の観音様
明治の中ごろに、早田本郷に、観音様がたてられた。不思議な力をもった観音様といって、だんだんお参りの人がふえてきて、遠いところからもくるようになったころの話や。
毎朝、毎晩、お参りの人で、お堂の前がにぎわった。お百しょうさんは、種蒔きのことや、とり入れのことをたずねにきたし、町のしゅうは、娘の嫁入りのことや、年寄りの病気のことなどをたずねにきた。
「観音様、どうぞ、おしえてくんせいなも・・・・・・・そのとおりでよかったら、軽うなってくんせい、いかなんだら、重うなってくんせいなも・・・・・・・」
と、石を両手に抱いて、一心におたずねをしている。すると、不思議なことに、よいときは、軽くなるし、いかんときは、重くなる。そこで迷いごとが、はっきりきまるから、にこにこ嬉しそうに帰っていくのである。
そこへ、現れたのが、隣り村の新田に住む大男の相撲とりである。米俵なら3俵ぐらい(180キロ)持ちあがる力持ちである。
「そんな石が、いちいち、重うなったり、軽うなったりするなんて、うそっぱちやーわっちが、ほかってくれるわい。」
村人たちは、びっくりぎょうてん、すみっこに小さくなってしまった。
大男は、つかつかと、お堂のそばまでくると、観音様の石をひょいと持ちあげようとした。そのとき、お堂がガタガタと揺れ動いた。どうしたことだろう。石は、びくっとも動かない。
ウーン。
と、力をだした。動かない。大男の顔から、汗がポタポタと落ちてきた。だんだんと、顔が赤くなってきた。それでも、まだ、動かない。
村人たちは、
「願いごとのかなうときは、 子どもでもあがるんやが、心がけの悪い者があげても、あがらんのじゃのー。ワッハッハッハ。」
と、笑いだした。
すると、大男は、かんかんに怒って、その石めがけてジャー、ジャー、ジャーと、しょんべ(小便)をかけた。
たちまち、石のまわりが、火の海となれば、
「あっちっちっちっちっー。」
と、大声をあげた大男は、まっさおな顔になって、逃げて行ってしまった・・・・・・と。