早田の伝説1
馬場の地蔵様
 馬場東の堤防の裏小段の一角に、延命地蔵尊(水神様)が、祀られている。
地元の人たちは、毎年、7月23日に、地蔵祭りを祝っているが、この地蔵様には、不思議ないわれが伝わっている。
 信長が、岐阜上に立て篭もっていた頃の話やと。お天とう様が、伊吹山に沈んで夜になると、城へ昇る石段の中の一つの石が、青白く光っとる。夜が来るたびに、又、光っとる。見張り番の兵たちは、だんだん気味悪くなって、足がふるえだしたと。ある夜のこと、見張り番の一人が、鉄砲をかまえて、その石めがけてズドーンと撃ったんや・・・・・・けども、石の横っ腹に、ちょぴっとした穴があいただけで、どうもならなんだ。兵たちは、よけいに気味悪うなって、とうとう城から下に向かって蹴落としたんやと。
 不思議な石は、金華山の険しい崖を、ゴロン、ゴロンと転げて、ドブン、バチャンと、長良川に落ちこんでしまったんやなあ。
 ところが、どうじゃ、川底に強く頭を打ちつけた石は、しばらくすると、ひとりでに動きだしたんや。
 「わしは、長良に行こうか、それとも、早田に行こうか。」とひとりごとを言いだした。
 すると、ゴロリン、ゴロリン、ジャブ、ジャブ、ゴロリンと川の中を動いて行ったと・・・・・。
 着いたところが、早田の馬場じゃった。
 そこを通りがかったお百姓さんは、ふと見なれない石が転がっとるので、首をかしげたんや。
 見ておるうちに、だんだんとふしぎな力にひかれてしまい。川から拾いあげて、堤防の上にあげといた。
 それから、そこを通る人たちは、知らぬうちに、お供えをするようになったんや。
 何年かたったある年のことや。
 大粒の雨が、4斗だる(約70リットル)に、何ばいも降ったんや。水はどんどんふえて、とうとう堤防一ぱいの水になってしまった。(一升水という)
 早田村の人たちは、青い顔になったなあ。
「堤防がきれるぞー、堤防守れやー。」
と口々に叫んだ。
 俵に土を入れてかつぐもの、畳をもちだすもの、竹を切ってくる者、みんなは、命がけや。
 岸に畳を並べて、竹をさしこんだ。土俵を積んで、何本も杭を打ちこんだんじゃ。
 それでも、水の勢いには勝てなんだ。堤防がだんだんくずれてくる。とうとう、穴があいてしまった。
 皆は、思わず
「たいへんだー。」
と、大声をあげた。
 そのときである。
 ザブーン、と、音がした。
 あの不思議な石が、堤防の上から、転げ落ちたんや。堤防の穴は、ピッタリふさがれてしまったと。
 きれかけやった堤防は、とうとう助かった。
 村人たちは、胸をなでおろして喜んだのなんのって。涙までだして、大喜びしたんやって・・・・・。
 それから、村人たちは、その石を堤防の上に、特別ていねいにまつったんや。
 誰いうとなく、「お地蔵様」「お地蔵様」と、呼ぶようになったというこっちゃ・・・・・。
 年がたつにつれて、お地蔵様の顔の形が、だんだんはっきり見えるようになってきたんやと。
 けど、今でも、あのとき、お城でうたれた弾のあとが、横っ腹に小さくついとるということや・・・・・。