〜自然観察から始まる自然保護〜

観察会の足跡

2023年4月9日 御嵩町ハナノキ湿地観察会

  • 籠橋さんの案内で、御嵩町のハナノキ湿地観察会が開催されました。
  • 千藤代表から観察会についての報告がありましたので掲載します。
  • 「ゴルフ場の駐車場をお借りして集合。そこから観察地に向かいます。送電線の管理道を歩き、尾根伝い山道を進みました。足元には、川原でよく見られるこぶし大の円礫がゴロゴロあり「山の上なのに、なぜ?」と不思議に感じました。このような礫は東濃地方の丘陵地の特徴で、地質が土岐砂礫層でおおわれているためです。
  • 尾根の東側は民有地で、残土処分場予定地に計画されており、土地の資産調査のため、樹木には、その土地の地主ごとに色の違うビニルテープが巻き付けられていました。
  • 送電線の鉄塔に到着すると、周囲の山が見渡せます。ハナノキは、花の時期が終わり、雌雄とも花は地面に落ちていました。メスの木は、果実が成長していく途中のため木全体が赤く見え、遠くからでも存在が目立ちます。籠橋さんは、御嵩町内のハナノキの調査を行っており、メスの木の赤色を目印に、まだ確認していないハナノキの個体がないか双眼鏡で確認していました。
  • 鉄塔から、送電線沿いに斜面を下ると、いよいよ湿地です。途中、送電線に接触しないよう、樹木が切り払われた場所に出ました。このような開けた場所は光が差し込むため、珍しい植物が見られることがあります。今回は、ヤマツツジの変種のミカワツツジが、花を咲かせていました。切られた範囲のすぐ外側に、ピンクのリボンがつけられた木がいくつかありました。籠橋さんたちがハナノキの幼木に目印としてつけたもので、送電線に接触しないよう伐採が行われた際、樹木を切らずに残してくれたそうです。
  • 尾根から谷に降りると、湿地に入ります。土岐砂礫層の下に、陶土として使われる粘土層があり、粘土層によって地下水が遮断されるので、砂礫層からちょろちょろと冷たい水が湧き出すことが、東濃の湿地帯の特徴です。特殊な環境のおかげで、ハナノキをはじめとする特異な植物が生き残っているといわれています。湿地に入ってすぐ、籠橋さんと楯さんがハナノキの未確認の幼木を発見。その場で樹高や幹周りの計測と木の位置を記録し、番号を書いたピンクのリボンをつけました。湧き水の流れの脇に、ミカワバイケイソウの芽がいくつか出ていました。
  • 「湿地の水が多い場所には、ハナノキの実生がびっしり生えるけれど、やがて消えてしまう。」という籠橋さんからの説明を受けて探してみると、高さが5pほど,先に赤味がかった葉をつけたハナノキの実生が見つかりました。目が慣れてくると,実生はあちこちに生えていることに気付きました。実生の幹には節があり、1年で節が1つ増えるので、節の数を数えると実生の年齢がわかるとのこと。実際に数えると、節が2つや3つのものが見つかりました。ハナノキの年齢も、マツのように節の数で分かるということを、私は初めて知りました。
  • 実生の観察後、湿地になっている谷を、元のゴルフ場の方に上っていきました。幹周りが2mくらいのハナノキが次々と現れました。見たことのない木肌の大木が現れ「こんなに大きなハナノキがあるのか?!」と、私も参加者の多くも驚きました。
  • それらの大木の中に、倒れているハナノキの大木が1本ありました。籠橋さんの記録によれば、2014年に倒れたとのことです。倒れた木の根を見ると、ハナノキの根は、針葉樹の根のように水平に広がっており、垂直方向には伸びていませんでした。幹周りが2mもある大木が簡単に倒れたのは、このような根の形状が理由ではないかと思われました。ハナノキの根が水平にしか広がらないのは、この木の特性なのか、湿地に生えているからなのかは分かりませんが、私にとって新しい発見でした。また、倒れた幹から枝が垂直に伸びて新しい葉をたくさんつけていたので、まだ生きていることが分かりました。籠橋さんたちは、この木の倒れる前の幹周りを計測し記録していました。以前計測した時と同じあたりの幹周りを計測すると、わずかですが大きくなっていることが分かりました。籠橋さんたちが、地道に緻密に、ハナノキの成長を記録してくださっているおかげで、このような新しい発見がありました。この、倒れたハナノキが、今後どうなっていくか楽しみです。
  • 湿地の周りには、ヒメカンアオイが生えていました。ギフチョウも飛翔しており、ギフチョウがカンアオイに産卵するのを観察できた参加者もいました。湿地内には、リョウブによく似た木肌の木がいくつもありました。これは、ナツツバキで、東濃の湿地ではよく見かけるそうです。私がこれまでナツツバキを見たのは、ブナが生えるような標高の高い場所でした。ナツツバキも氷河期に標高の高いところからこの地に下りてきて、氷河期が終わった後もこの地にとどまっているのかもしれません。
  • 観察した湿地では、ハナノキの大木から実生まで、いわば老人から、成年、少年、赤ちゃんまで様々な年齢のハナノキが見られたので、健全なハナノキ群落だと思いました。観察した谷は、リニア残土処分場予定地にはなっていません。しかし、両脇の谷には同じような湿地があり、処分場予定地になっているそうです。現地を実際に見て、貴重な自然を、何とか残したいという思いを強くしました。
  • 貴重な湿地を案内してくださった、籠橋さんに感謝申し上げます。

ハナノキ(左)と、倒木してなお生き続ける大木(右)