文責:花園大学少林寺拳法部監督 大森久雄

≪イラク戦争について≫

合掌 
 日本時間3月20日に米英軍によるイラク侵攻が始まった。仏独ソを筆頭に、国連査察の継続を主張する国と、また初めて開戦前から世界的規模で行われた反戦運動の声を無視して、アメリカは力による問題解決へと進んだ。米英軍のバクダット等主要都市制圧とフィルド広場のフセイン銅像引き倒し(フセイン政権崩壊の象徴)をもって、3週間でイラク戦争は、幕切れとなった。侵攻理由であった「生物化学兵器の存在」と進軍目標の「フセイン大統領の抹殺」は、その所在も生存も不明のまま、戦争は短期に終結した。民主国家?新生イラクに向け、「イラクの戦後復興」にマスコミ報道は移った。勝てば官軍よろしく、戦後処理をこれまた国連ではなく米国主導で始め出している。査察継続派や反戦の声は消えてしまった。短期に収束させた、民衆には最大限被害を出さない「きれいな戦争」だったのかの検証や「何のための戦争?」だったかの批判・糾弾の声は大合唱となっていない。
 昨年の教書でブッシュは、イラクを悪の枢軸国と名指しした。9・11の同時多発テロを契機に、テロリズムの攻撃には予防防止=先制攻撃が謳われた。殴られる前に殴る。アメリカの伝統的戦争スタイルは、「正当防衛」にあった。相手からの攻撃が「装われ」て、国内世論を結集して反撃に当るというものであった。が、先ず守勢から反撃に転換の図が大転換を遂げた。ブッシュ政権の「9・11」以降のテロや、大量破壊兵器の保持国に対する好戦性は、大統領の宗教的確信やイデオロギー的偏りがある、とも言われる。
 先の湾岸戦争では、合成された油まみれの鳥の写真と両親を殺された少女の写真が世界に配信され、アメリカの攻撃は始まった。真珠湾攻撃へと日本を誘い込んで日米開戦が始まったのも、正当防衛を装う従来型の系譜である。今回は大量破壊兵器=生物化学兵器の廃棄を迫るものであったが、イラクがその疑義をはらすために国連の査察を受け入れても、Noでも開戦であった。イラクは、生物化学兵器をイラン・イラク戦争時と、クルド民族鎮圧の時に使用している。イラン・イラク戦争時に、イスラム原理主義に抗する為、フセインのイラクを支援し、武器供与をしたのはアメリである。
 イラクは進軍され、体制を転覆された。他方、核の所有を公言している北朝鮮は、優先的な攻撃を受けなかった。大量破壊兵器の所持の可能性を疑われ、攻撃を受ける。中古兵器の在庫一掃と、新規開発した大量破壊兵器(戦術小型核兵器等)の実験場として。相手には廃棄を要求するが、自分は使用する。この自己都合。そもそも米国は、核施設を保有し、中東で唯一NPT条約(核不拡散条約)に調印していないイスラエルを支援するが、シリアを非難する。大量破壊兵器においてもアメリカは二重基準(ダブルスタンダード)だ! 査察を受け入れ、武装解除を進めて「弱体化したイラクへ攻撃をしてくる」アメリカの姿は、次に標準を向けられたシリアとイラン(またサウジアラビア)にはどう学習されたであろうか。核拡散を奨励して(そして叩きに行く)いるようなものではないか。このご都合主義のアメリカ1国主義は、この先戦争を引き起こしていくだろう。ネオコン(新保守主義)と言われる閣僚達が影響力を行使していけば。軍需産業が構造不況業種にならない為にも。国連外交の無力化を自ら演出して、力が正義であるかのスタイルを続けて行こうとするだろう。が、すでに世界の覇権はアメリカからEUに移っていくことを暗示したのが、このイラク戦争である。当座は、アメリカの圧倒的軍事力の前に、無力感・虚脱感を感じざるを得ないが。以下、主にWeb上でこの間、目にした解説、論評を転載させていただくことで、アメリカに対する認識を深めておきたい。(文中、敬称略) 結手 


【何のための戦争?必要であったのかどうか】
 そもそも今回、米英軍による国連決議も経ない見切りイラク侵攻の大義は、「イラクの大量破壊兵器保有疑惑」にあった。国連監視団による査察継続では手ぬるい、武力行使で叩き潰す、が安保理5カ国のコンセンサスをとれなかった米英のスタンスである。が、大量破壊兵器所有疑惑が争点で始められた戦争だが、米国は、その本来の目的を変えてしまう。「フセイン政権打倒、イラクの民主化」に目的を移した。しかも戦後処理を米英主導で行う意図を明確にして、イラクにおける権益を主張し始めている。米国が、「正義のための戦争」ではなく、なりふりかまわないエネルギー資源収奪のための「植民地戦争」を展開したのだ、とみれば分り易いだろう。
〜〜「既にアメリカはイラク後の「統治体制の骨格」を決定している。「復興人道援助室(ORHA)を中心にしてフランクス(米軍)中央軍司令官(日本占領時のマッカーサー長官に当たる)とガーナー元陸軍中将を充て、復興、人道、文民統治の三部門をアメリカが握ることになっている。「血を流した者がイラクを統治する」方針が貫かれている。これで大量破壊兵器は口実だけで、実行したことはフセイン大統領殺害、市民無差別殺戮、油田略奪(現在70%確保)、政権転覆、米傀儡政権樹立、国連(世界)で復興事業資金を集めアメリカが国際入札を仕切る。アメリカはイラク人民を独裁者から解放すると言うが、国民の方にしたらフセインに代わってアメリカが国民を殺害しながら政権の場に着くだけのこと。フセイン政権がコントロールを失ったとたんに全国で「略奪行為」が蔓延している。自由と食料は飢えと恐怖に慄く国民を混乱の坩堝に追いやるだけだ。」(増田俊男No.187号「増田俊男の時事直言」2003年4月10日号)http://www.luvnet.com/~sunraworld2/)

〜〜「イラクの国連1441決議違反が武力行使の根拠というなら、イスラエルも国連決議違反のままだ。」今回のキーワードは「不必要な戦争」。「現実に戦争をしなければ取り除けないような脅威があるわけでなく、これまでのイラクへの国際社会の封じ込めは効いており、さらなる封じ込め、制裁で十分対応できる。」(寺島実郎「攻撃は『憎悪の連鎖』を招く」毎日新聞 2003年2月6日掲載記事)http://www.jri.or.jp/rijicyou/hatugen-08.htm

 少し長くなるが、また半年前の論考だが、「国際刑事裁判所」に関する条約批准を日米に提案し、日本のとるべき立場を提言しているので、見落とせない。
〜〜「時代の空気」に合わせ、米国のイラク攻撃もやむなしとしている人たちは、やがて歴史の中で不明を恥じることになろう。9・11以降、米国は恐怖と不安の心理を増幅させ、「開かれた国」の理念は歪みつつある。また「アフガン攻撃」を成功体験とする思い込みが、圧倒的軍事力への過信となって、「全能の幻想」に陥りつつある。さらに、今年だけで2割以上も落ち込んだ株価に象徴される経済不安が相俟って、「力による問題解決」への誘惑に引き込まれつつある。昂ぶる米国を「国連による大量破壊兵器の査察」という手順にとりあえず抑え込んだ局面にあるが、米政権の本音が「サダム体制の打倒」にあることは間違い無い。しかし、日本は冷静に筋道を見極め、「米国の真の友人」としての役割を果たすべきであり、イラク攻撃から適切な距離をとるべきである。
 イラク攻撃には正当性がない。イラクの野心を増長させ、湾岸戦争に至らしめたのは、「イラン・イラク戦争」時の米国のサダム支援であり、米国自身の中東政策の失敗の連鎖がこの地域の混迷をもたらしたといっても過言ではない。もし、米政権の新外交ドクトリンとされる「テロを仕掛けてくる可能性のある相手への先制攻撃権」を正当化するのであれば、敵対する勢力へのあらゆる攻撃が許容されることになり、パレスチナ、インド・パキスタン、チェチェンからアジアに至るまで、世界は火柱に包まれ、世界秩序は液状化する。
 本気で「テロとの闘い」を決意するのであれば、来夏にオランダのハーグに設立されることになった「国際刑事裁判所」構想を支持して、国境を越えた組織犯罪を処断する刑事訴訟システムを粘り強く整備する努力に参画すべきである。米国も日本も既に世界90カ国以上が批准している「国際刑事裁判所」に関する条約を批准していない。
  米国がイスラエル・パレスチナ紛争をはじめとする中東問題に血まみれになってきたのに対し、日本は中東のいかなる地域紛争に直接介入したこともなければ、軍事援助・武器輸出をしたこともない。また「武力を紛争解決の手段としないこと」を国是としており、いかなる国にも「大量破壊兵器の廃棄」を求めうる立場にある。この基軸を見失ってはならない。
  同盟国たる米国への責務ということであれば、4.7万人の米軍駐留を受け入れている現実と年間6500億円もの米軍駐留経費負担で十分である。イラク攻撃を支持することは日本人に新たな「覚悟」を迫るものである。米議会予算局の試算では、攻撃から終息までを9カ月と想定して、戦費は約420億ドルとされる。また、戦後の駐留軍の派遣維持費が300億ドル程度と想定され、その8割以上は同盟国負担を期待している。仮に日本に2割程度の負担が期待されるとして、1.8兆円程度を提供することを意味する。この金融不安と財政赤字を抱える国に「米国の正義の戦争」に加担する余裕があるだろうか。(寺島実郎「米国の対イラク攻撃 どう対処するか」毎日新聞2002年11月25日)http://www.jri.or.jp/rijicyou/hatugen-06.htm

【情報戦とも言われた今回の戦争だが】
アメリカのダブルスタンダードは、様々なところで現出する。人権、民主主義、国際法の基準とその判断は普遍ではない。いな、まるで建前だ、ホンネは違う。言動が違うということがよく分るので、長いがほぼ全文を引用する。

〜〜「衝撃と恐怖」と名づけた大規模な空爆を米英軍が行った数日後、イラク国営テレビがイラク領内で捕らえた米軍兵士の姿を放映したことについて、ラムズフェルド米国防長官は戦争捕虜の取り扱いを定めたジュネーブ条約違反であるとしてイラクを強く非難した。
米国と戦争捕虜
 国際人道法とも呼ばれるジュネーブ条約は世界180カ国以上の政府が署名しており、4つの条約と2つの追加議定書からなる。捕虜に関するものは3つめの条約で「捕虜は常に人道的に待遇しなければならない」として、処遇内容や方法を規定し、処刑、拷問、暴行、脅迫、報復行為などを禁止、侮辱や公衆の好奇心から保護されねばならないとある。条約の制定はテレビが普及する以前であったため、テレビカメラの前で捕虜をさらすことについてはふれていないが、顔写真の公開を禁じている。
 
 圧倒的な軍事力を誇り世界各地に兵士を送り込んでいるアメリカが、捕虜となった自国の兵士の扱いに大きな関心があるのは当然だろう。しかし、ほかの政府に対してジュネーブ条約の規定を尊重するよう求めるならば、アメリカ自身もその条約に従うのが当然である。
 
ペンタゴンが流した情報をそのまま報道する日本のメディアは、イラク国営テレビが米軍兵士を放映したことについては報道したが、その前日に米ニューヨークタイムズ紙が米軍兵士の足元にひざまずく屈辱的なイラク兵捕虜の写真を掲載したことについても指摘しただろうか。イラクがその翌日に行ったテレビ放映はアメリカに倣ったにすぎず、アメリカの捕虜に対する対応はアメリカ政府がとっているそのほか数多くの二重基準の一つにほかならない。
 
 以前にも書いたが、カブール郊外の米軍基地では米軍が捕らえたアルカイダのメンバーに対してさまざまな拷問が加えられていることが人権団体などから指摘されている。イラクのジュネーブ条約違反を非難したラムズフェルド米国防長官は、アルカイダのメンバーは「戦争捕虜」ではなく「不法な戦闘員」であるためジュネーブ条約に基づく権利はない、だからいかなる屈辱を与えようともかまわないと明言している。

 イラクに対して国際法の順守を声高に主張するものの、その記録をみればアメリカが国際法の熱心な擁護者ではないことは一目瞭然であり、米軍兵士が捕虜となってイラクのテレビで屈辱的な尋問をされているのを目にしたときだけ、急に国際法を持ち出すにすぎない。
 
 確かにジュネーブ条約は政府軍や一般国民の抵抗軍を保護するものであってテロリストグループを守るものではない。しかし、捕虜か不法な戦闘員かを決める権利はアメリカにはない。いかなる人であっても公正な裁判を保証されるとジュネーブ条約に明記されている限り、そのプロセスも経ずに拷問や体罰、残虐で品位を汚す扱いをアメリカが一方的に行うこと自体が、国際法に違反する行為だ。

 ジュネーブ条約だけではない。国際法を無視するアメリカのごう慢さは著しい。2001年3月、ブッシュ大統領は京都議定書からの離脱を宣言した。京都という名の通り日本が議長国となっているこの議定書は、大気中に排出される温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量を制限することが目的である。現在、地球上で排出される二酸化炭素の四割近い排出量を占めている国がアメリカだが、議定書に合意するということはアメリカの産業やその国民生活に変更を余儀なくさせる可能性があるということである。どこよりもエネルギー消費の多いアメリカ抜きでの地球環境対策など意味がない。しかし、京都議定書による他国からのアメリカ産業に対する攻撃は許さないというのがアメリカの理屈である。

 ブッシュ大統領はさらに同年12月、弾道弾迎撃ミサイル制限条約から公式に離脱した。核兵器の時代において最も主要な中心的武器の管理協定を破棄したのである。生物兵器協定の施行を可能にする議定書にも反対票を投じている。
 2001年4月、アメリカは国連の人権委員会のメンバー改選で落選した。国連分担金の支払いを保留にした上に分担率を25%から22%に引き下げ、また、人権委員会のメンバーとしてアメリカは、エイズの薬をもっと安価で入手できるようにする決議にも、さらには十分な食糧が入手できるということを基本的人権として認める決議にも単独で反対した。

 このほかにも、地雷禁止条約止条約への署名拒否、戦争犯罪や人道に対する罪を裁く国際刑事法廷条約にもアメリカは反対している。国連を無視してイラク攻撃を開始したように、アメリカが世界を支配する構図を邪魔する国際法など順守するつもりはまったくない。イラク戦争での捕虜の扱いに対する二重基準は、米国のごう慢さを示す一つの例にすぎないのである。」(ビル・トッテン: Our World.569 「米国と戦争捕虜」:2003/4/11)
http://www.ashisuto.co.jp/corporate/rinen/totten/ow_text.php?A=1&B=578



〜〜関が原の合戦が徳川家康が日本を統一するために行った戦いの一つにすぎないように、イラク攻撃はアメリカが世界支配を達成するための、一つの合戦である。アメリカの目的はイラクを征服して戦後の日本で成し遂げたように、米国の傀儡政権をイラクにつくることである。そして、そこからイラクはもちろん、イランやサウジアラビアの石油を支配することだ。
 そのために新たな戦いが必要であれば、また理由を見つけて、見つからなければねつ造してでも攻撃を行うであろう。戦場は中東だけではない。ベネズエラやコロンビアでも、石油の支配権を手にするためにはアメリカは同じように自分の目的を阻む者への攻撃を行うであろう。
 アメリカは先進工業国にとって最も重要な資源である石油をその手中に収めたいのである。ドイツ、フランス、日本といった先進国は、その経済を石油の輸入に依存している。もしアメリカが石油価格をその意のままに上下することができれば、例えばアメリカの要求をロシアが聞かなければ石油価格を下落させることによって、石油輸出国であるロシア経済はまひするだろうし、アメリカの要求をドイツや日本に聞かせたければ石油価格を高騰させるという脅しをかけることができる。
 
 ロシア、ドイツ、フランスはこれを理解していたためにイラク攻撃に反対した。しかし永田町はこれを理解できなかった。日本政府がこれを理解できなかったことは、アメリカが日本の資金に頼っている事実を考えると二重に皮肉なことである。ブッシュにとって日本は都合のよい金庫なのだ。必要なときに必要な資金を調達してくれる便利な金庫である。これまでもそうだったし、これからもそうだろう。日本はそれを切り札として使うこともできたし、使うべきだった。もしアメリカが日本の国益に反する政策や行動をとろうとすれば、それに対して拒否権を出すべきだったのだ。
 
 しかし永田町の傀儡政権は、北朝鮮からの攻撃を守ってくれるのはアメリカしかないということをここであらためて強調し、米国の属国であることを自ら表明した。そして日本のメディアは日本政府を助けるために、テポドンや難民が日本へ押し寄せてくるといった、北朝鮮への恐怖や憎悪をひたすら国民にあおり続けた。そして日本一国だけで日本の防衛は不十分であり、米国は「日本への攻撃は米国への攻撃と見なすと言ってくれたただひとつの国で、それを忘れてはならない」とし、日米同盟にしがみつく姿勢を支援した。

 「しかし日本にとって真の脅威は北朝鮮ではなく、アメリカであり、日本が言いなりになってアメリカに追随すればするほど、日本の危険は大きくなる。日本はいまドイツやロシアのように、アメリカに依存しない、アメリカから独立した態度をとるべきなのである。そして米国を経由した間接的な外交ではなく、西欧諸国だけでなく韓国、北朝鮮を含むその他のアジア諸国とも、日本は独自の直接外交を行うべきなのだ。しかし小泉首相の発言を聞く限り、日本はアメリカ追随を今後さらに強めていくであろう。小泉首相は、23日防衛大学校の卒業式でこう述べた。「米国は大量破壊兵器の廃棄という国際社会の大義にしたがって犠牲を払おうとしている。これを支持し、支援するのは当然だ」。(ビル・トッテン「世界支配のためのイラク攻撃」Owe World 567: 2003/3/28)
http://www.ashisuto.co.jp/corporate/rinen/totten/ow_text.php?A=1&B=576


〜〜フセインのような独裁者はイラクだけではないし、国連決議を遵守しない国はイスラエルを始めほかにもある。またイラクは米国を攻撃したこともない。
 そんな中で米軍は新型の空中爆発爆弾「モアブ」の爆発実験をフロリダ州で実施した。地上付近で爆発し、高さ約3000メートルのキノコ雲を生じる巨大爆弾で、アフガニスタン攻撃で使われたデイジーカッターと呼ばれる爆弾の改良型で、昨年から開発が始まったものだという。
イラクを世界平和の脅威だとしてその武装解除を要求しながら、米国自身は新兵器の開発にはげんでいる。イラクの武装解除が中東地域の安定につながるといいながら、その地に先制攻撃をかけるという。
1991年の湾岸戦争で米軍は数百トンの劣化ウランを投下し、42日間の「砂漠の嵐」作戦で殺されたイラク市民は15万人を超えた。犠牲者の大部分は子供だった。停戦後も米軍は数千人のイラク兵士を殺害するなど、それは残酷で一方的な戦争だった。その戦争に日本は130億ドルもの資金を提供した。1998年12月には、米英軍は再び「砂漠のキツネ作戦」を行い、湾岸戦争を上回る巡航ミサイル数で攻撃をした。日本政府はこのときも攻撃支持を表明した。ユニセフの推定では、湾岸戦争とその後の経済制裁で100万人以上のイラク人が死亡したとされる。また、劣化ウラン弾の残留放射能によって現在も何万人ものイラクの民間人や子どもたちが白血病やがんに苦しんでいる。

 今、その必要性も法的根拠も証拠もないまま、イラクに新たな戦争を開始しようとしている。米英、日本政府は国民に戦争を支持させるために、メディアを使ってフセインが悪の権化であるようなプロパガンダを展開している。私はフセインが独裁者であることを認めるし、イランとの戦争でイラクが化学兵器を使ったことも知っている。しかしイランも使ったし、第一次大戦では米国も化学兵器を使った。中国にはいまだに日本軍の化学兵器が埋まっている。
フセインは独裁者であり、フセインと反する政治思想のイラク人は迫害を受けてきたことも事実だが、湾岸戦争以前、イラクは中東でもっとも中流階級の国民が多い国だった。中東諸国の中でも最高レベルの教育制度や健康保険制度を備えた国だった。それらをすべて破壊したのはフセインではない。湾岸戦争とその後の経済制裁である。

 世界の多くの人々(政府ではない)が反対するなかで、いま世界が束になっても追いつかないくらいの核兵器を始めとする大量破壊兵器を山ほど保有する超大国は、自国が攻撃される前にその国に大規模な先制攻撃を加えると通告した。世界は弱肉強食のジャングルになりつつある。(ビル・トッテンOW566「最後通告」: 2003/3/19)
http://www.ashisuto.co.jp/corporate/rinen/totten/ow_text.php?A=1&B=575

【イラク占領後のアメリカの動きは?】
 これから先のアメリカの動向は増田俊男の「時事評論」を掲載しておきたい。

〜〜フセインの殺略と大量破壊兵器の発見を狙ったアメリカは、イラク攻撃の為の錦の御旗は果たされないままに、戦争は終焉した。
●アメリカの巧みな金集め戦略
 米英が短期間でイラク占領に成功することははじめから決まっていたから、3月19日(日本時間20日)米英がイラク攻撃を開始するまでの安保理における対イラク武力行使賛否論はフセイン政権陥落後の自国の国益をベースにしたのは当然のこと。仏、ロ、中、独が米英に反対したのはイラク後の国益(独を除く)を充分考えた上でのことである。戦後の国益を判断するに当たってのポイントは:1.米英の戦費、2.復興需要、3.原油利権、4.イラクの対外債務、5.人道支援、6.イラクの主権(暫定政権)、であった。1から5までは資金にかかわることで、経済的国益問題。6はイラクでの原油と復興需要の利権を決定する権力態勢の問題である。いずれにしても、イラクを占領したアメリカは今早急に資金を集めなくてはならない。資金源はアメリカ自身、イラクの石油収益、国際社会(イラク戦争賛成国を中心に、反対国からも)である。各国とも国益にならない出資は国民に対して背任と考えているから、基本的には、1、4、5には消極的になる。アメリカはイラク占領後の政権支配で最も儲かる原油利権を独占する。「血を流さなかったフランスとドイツには復興事業から除外する」と米議会で決議した上で、儲からない事項(1、4、5)は国際社会に責任を負わすのが当然としている。どこの国も(日本は例外)儲からないことに金を出さないので、アメリカは2、と3、の利権の一部を解放することを条件にフランスをはじめ対米対立諸国を国連の場に引き出そうとしている。G7 (4月12日ワシントン)でアメリカは実際行動してきたことと、これからやろうとしていることとは裏腹の「国連は死活的役割を果たす」(ブッシュ・ブレア会談でのブッシュのコトバ)と書いたビラをばら撒き、子供だましの国連重視プロパガンダを行ったうえで、議長国としての権限を利用して、全く儲からない4、5、だけを討議するための国連安保理開催を呼びかけた。さすがに日本を除く他の参加国は鼻も掛けなかった。アメリカは各国が同調しないことは初めから承知の上。ただアメリカがビラを撒いて国連重視を表明しているのにフランス等が無視したという印象を世界に与えることが本来の目的であった。アメリカはすでにフセイン政権から得ているロシアの油田既得権を保証することにより、アメリカが提唱している対イラク債権問題解決のテーブルにロシアを引き込むことに成功した。フランス、ロシア、中国、ドイツの対米結束(シラク・プーチン・シュレーダー三首脳会談)の切り崩しである。中国もイラク油田既得権を失うわけにはいかないからやがてロシアに続くだろう。フランスもロシアに負けないほど対イラク債権と油田既得権持っている。このままアメリカにたて突いていると一人損になりかねないので結局「人道支援」、「イラク国内治安維持」など聞こえのいい問題で安保理討議に協力することでアメリカと裏取引をする。早い話しが総会屋のようなもので、大声を上げて裏で儲かる利権を手にしようとする戦略である。純粋に戦争反対したドイツが貧乏くじを引き、日本は苦渋の選択をしたということでおこぼれ頂戴で結末。
●「国連、国連」と言うが?
 国連とは:1.国家ではない、2.軍隊がない、3.常任理事国5カ国には拒否権がある、4.国連安保理決議は執行力があるが、5カ国の内1カ国でも拒否権行使があったら無効である。今日、日本を除く総ての国は戦争をする自由を持っているが、国連とは本質論で言うなら「戦争をする前に平和裏に利害調整が出来るかどうかを討議する機関」である。安保理常任理事国(米、英、仏、ロ、中)のいずれの国も拒否権を行使しない時に限って安保理は機能する。従って国連が機能するかどうかは安保理常任国間の政治力学に依る。本年3月アメリカが国連無視で対イラク先制攻撃に踏み切るまでの国連が機能していたのは、安保理内でアメリカの政治主導力が存在していたから。安保理でアメリカにもソ連にも絶対的政治主導力がなかった冷戦時代(約20年間)は国連は全く機能しなかった。だから当然アメリカもソ連も国連分担金を一切払わなかった(滞納)が、1991年ソ連が崩壊してアメリカが国連を主導するようになってからは払い出している。つまり国連は常任理事国間の政治力が一方的であれば機能し、勢力均衡又は対立状態になると機能しない。国連の「平和目的」とは間違った表現である。「平和は状態であって目的にはなり得ない」のである。「場」は状態であり、目的(国益)を達成するための環境でしかない。目的を達成するための「場」は二種類あり、一つは「平和の場」(国連など)で、他は「戦争」である。「戦争反対」と叫んでいる人は世界中にいるが、果たしてどれだけの人が戦争の目的意識があるのか疑問である。従って国連は常任理事国が強国(今まではアメリカ)の主張に従ってお互いに利益を分かち合っている間は機能し、国連は「お墨付き」を与えることにより国連決議(常任理事国の利益の分かち合い)が如何にも国際世論を代表するかに見せかける「機関」であった。国連はそれ以上でも以下でもない。今回イラク戦争で安保理は機能しなかったが、これでアメリカの国連主導の時代が終わり、EU 連合の政治的台頭が始まったことが分かる。
●「国連中心」はナンセンス!
 米ソ冷戦が終わりしばらく米主導の時代が続いている間国連が機能し、米対欧の対立時代の到来で国連は機能しなくなる。この政治力学を理解しないで、何でも、聞こえのいい国連、国連というのは無責任と言うか、無知と言わざるを得ない。これからは米欧対立と漁夫の利を狙うロ中の戦略の中で、アメリカは徹底した(20年間)戦争中心戦略をとる。何故なら経済力において主導力低下が続くアメリカにとって、ギブアンドテーク型の話し合い(国連)は命取りになるからである。先制攻撃という天下の宝刀でテークアンドテーク以外にアメリカのの存在は無い。戦争時代はアメリカの没落まで続くことになる。(「増田俊男の時事直言」米英イラク占領後号(2003年4月14日号) http://www.luvnet.com/~sunraworld2/


〜〜アメリカのネオ・コン主導統治体制は大失敗する
 いま世界中で議論されているのが、アメリカのイラク後構想がうまくいくかどうか。「うまくいく」ということはイラクが秩序を回復して、「イラクの国民の、国民による、国民の為の政府」が出来ること。ほとんどの議論は「理想通りにはいかない」。モザイク国家と言われるイラクでは宗教、民族、文化、周辺国利害、大国の利害、等々絡み合っているので彼らに自由を与えれば抗争が激化するだけ。アメリカは武力でイラクの国民を政治インフラ(大統領と行政機構)から解放は出来ても「民心の解放」は出来ない。サダム・フセインの圧政で保っていたイラクの国体は、アメリカがいつも侵略の理由に使う「自由」によって崩壊したが、その自由がイラクを無秩序国家にする。だから世界の議論は正しい。アメリカのイラクの戦後構想は失敗する。そしてフランス、ロシア、中国、ドイツはイラク後の石油と復興需要の利権に食い込もうとアラン国連事務総長と世界の世論を巻き込んでアメリカに挑戦する。アメリカの理由なきイラク侵略と略奪を責め、国連がイラク後の主導権を取るべきだと訴える。そして譲らぬアメリカとの対立を深める。アメリカは仕事が欲しい彼らを、国連機能復活の名のもとに、復興予算をちらつかせて国連ショウにおびき出す。国連で尽きることのない議論をしているうちに既に開発計画書を提出しているアメリカのメイジャー石油資本がやがて世界一になるイラク油田開発を始める。
●アメリカのイラク統治失敗は成功のもと!
 かねてからの私の考えは「アメリカの失敗こそが成功」。当初からのアメリカのイラク占領目的を忘れてはならない。石油独占と民主化の波を全中東に波及させることによる全アラブの混乱であった。イラクが社会科の教科書に書いてあるような民主国家になったらアメリカがイラクから得るものは無くなる。サウジより埋蔵量の多い油田をイラク国民に与えてしまうことになるからだ。イラクが本当の民主国家になったらイスラエルはどうなるのか。確かにイラクからミサイルは飛んでこないだろう。しかし「大ユダヤ主義」はどうなる。イスラエルは領土拡大のチャンスを失ってしまう。イラクの内政を混乱に誘導し、周辺国の政情を不安定にし、テロを誘発し、さらに一層反米思想を煽り、イスラム世界がこぞってイスラエルに対して戦いを挑むところまでがアメリカの責任である。イスラエルでは2000両の戦車とミサイル爆撃機が出撃命令を待っている。戦車の行方をさえぎる数千人のパレスチナ人は毎日殺害、逮捕されている。アメリカの戦後のイラク統治体制は、何としても失敗することが成功なのである。(「増田俊男の時事直言」No.187号(2003年4月10日号) http://www.luvnet.com/~sunraworld2/

       
〜〜 1991年の中東戦争の目的
1991年の湾岸戦争はイラクのクエート侵攻を理由にアメリカは安保理の承認のもとに国連多国籍軍を結成してイラクを攻撃した。アメリカの公文館での秘密公文書の発表で真珠湾攻撃がアメリカの誘導のもとに行われたことが明らかになったが、同様にイラクのクエート侵攻もアメリカにそそのかされて行われたのであった。アメリカはサダム・フセインを世界の悪党に仕立てるためイラク軍の非人道的行為を示す偽造ビデオや、当時世界が環境に関心が強まっていたことから、フセインを環境破壊者にするため油だらけの海鳥の偽造合成写真をメディアにばら撒いたりした。1991年の湾岸戦争の目的は世界最大の石油産地中東にアメリカ軍を配置することであった。そのためアメリカは1980年代のイラク・イラン戦争でイラクを同盟国として資金援助し核兵器、化学兵器施設を与えイラクを中東最大の軍事大国にしておいて、隣国クエートを占領させ、サダム・フセインを中東の悪の枢軸にした。イラクの脅威を背景に安全の名の下にサウジ、クエート等の産油国に米軍を配置することに成功した。中東戦争後故意にフセイン退陣を迫らず、イラクに軍事力を温存させたままにしたのは、丁度日本に対する北朝鮮のように、アメリカの軍事覇権維持のためイラクを中東の脅威のシンボルに祭り上げておく必要があったからである。
●2003年の湾岸戦争の目的
 中東をアメリカの軍事覇権下に置いた後はイラク政権の乗っ取りである。1991年以来OPECに原油供給を行わせたが、加盟国の生活水準向上の為原油コストが上昇し、世界が不況になってきたので、低コストで、開発余地が甚大な(サウジの1万本以上の井戸に対してイラクは100本前後)イラクをわがものにすることが必要となった。これが今回のイラク占領の目的の一つである。アメリカによるイラク攻撃が始まると、フセインは中東での孤立を防ぎ反米世論を喚起し、イラクへの共感を惹起するためアラブ共通の敵イスラエルに攻撃を加えるだろう。イスラエルは渡りに船でパレスチナ、ヨルダン、シリアへの攻撃を開始する。アメリカはイスラエルに中東侵略の理由を与えると同時にイスラエル対中東アラブ諸国との戦争に誘導する。戦争は長期化し、アメリカに原油価格主導権を奪われたアラブオペック諸国はイスラエル戦で経済消耗し中東はアメリカとイスラエルの支配下に落ちる。イスラム過激派の自爆テロはアメリカ支配下の中で今後何十年間も続くだろう。結果はアメリカの中東石油支配とOPECの崩壊、イスラエルの領土拡大、テロ続行である。
●歴史を貫く「横暴」
 1991年の湾岸戦争は、たとえアメリカが誘導したとは言え、イラクがクエート侵攻をした事実があった。しかし今回の英米イラク攻撃は理由がない。イラクは大量破壊兵器は無いと言い、フセインはもし国連監視団が大量破壊兵器と指定するなら何でも構わず破棄するようにと命令をだし、毎日のように国連査察団指導下でミサイル(イラクは容認範囲内としているが)を破棄している。北朝鮮のように、核開発を続行したり、テロ支援国(イエーメン)に15機のスカッドミサイルを送り込むようなこともしないし(アメリカは故意に荷揚げさした)、またアメリカの偵察機に戦闘機を接近させミサイル攻撃しようとしたわけでもない。今回のアメリカのイラク侵略(アメリカは公式にInvasion against Iraqと言っている)を正当化できるものは皆無である。フランスも理由無きアメリカの軍事攻略を非難するが、かといってフランス軍を出動させてアメリカの侵略行為を止めようなどの発想はない。口先だけ。何時の時代も人間社会を貫くものは暴力の原理だけであることを、この際よく認識することである。
●世界の世論
 世界の世論と言う「国家」は無いから世論に武力はない。爆弾を抱えて社会を混乱に陥れるテロリストは多少力があるが、何百万人が戦争反対のデモをしても、戦争が始まるとオリンピックよろしく「赤勝て、白勝て、アメリカ頑張れ」になる。アメリカの軍事力がずば抜けて巨大である限りアメリカの暴力と横暴による侵略を止めるものはない。あれほどアメリカのイラク攻撃に反対しているフランスも、アメリカのイラク占領後の経済復興には喜んで参加すると表明している。アメリカを倒すだけの軍事力が存在しない限り、世論など「反米ソング」でしかない。好きな歌を歌って原油が手に入ることはないのである。
●日本の立場
 日本はイラクと経済規模は違うが国家の本質は同じである。日本は真珠湾攻撃に誘導され、敗戦と同時にアメリカによって「悪の枢軸」、「侵略国」にされた。名前は安全保障となっているが何一つ日本の安全を保障することは書かれていない(英文)「日米安保」の名のもとに日本全土を米軍に占領され、占領代金を払い続けている。日本の軍事危機に対して日米安保上アメリカは何の責任も義務も無いから、アメリカが日本から戦争資金を得ることが求められると必ず北朝鮮からの脅威が日本に迫り、日本はアメリカの要請に応じるパターンを繰り返す。日本もアメリカの必要に応じて、脅かされたり、すかされたりしながら存在しているのである。         (中略)
●小泉首相の記者会見
 小泉総理の声がテレビから流れてきた。「日米同盟と国際協調を基盤とすることが日本の指針である」と言う。矛盾声明も甚だしい。又首相は「アメリカは、日本に対する武力行使はアメリカに対する攻撃とみなす唯一の国である」と言った。ならば北朝鮮による日本人拉致はアメリカ人が拉致されたことであり、1998年8月31日日本に向けて打たれたテポドンはアメリカに向けて打たれたものであり、不審船の侵入はアメリカに侵入したことであり、最近日本をターゲットにしたノドン脅威はアメリカの脅威であるはず。
 ところが1998年、北朝鮮にミサイルを打ち込まれたことになるアメリカは実際には北朝鮮に米と石油を与えているではないか。国際協調というが約200カ国の国連加盟国のうちたったの45カ国しか賛成しない米英のイラク攻撃に対して日本が諸手を挙げて支持することが何故国際協調なのか。出席した記者連中も「はあ、さようでございますか」で終わり。何の矛盾も感じないらしい。こういう平和もあるのだなあ、とあきれた。
(「増田俊男の時事直言」湾岸戦争開始号(2003年3月20日号)
http://www.luvnet.com/~sunraworld2/

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