声がきこえる。透明な、瑞々しい水に似ている。それは光にのってやってくる。
瞼をおろす。描かれるのは一人の女性だ。彼女はその身を冷たい泉にあずけている。微弱なせせらぎが、彼女が左手に持っている小さな花束が揺れる音とハーモニーを奏でている。彼女は虚空を見つめている。周りは薄暗い。けれど彼女は明るく際立っていた。彼女の、赤でさした唇がちいさく動いている。
女の体は徐々に温かさを失っていく。冷たい手が奪っていく。女の表情はおだやかだ。おだやかにうたっている。左手で花束をゆらして、


僕は考える。何かを考えるために考えている。日常のなかに日常を見いだそうとしてみる。
考えることはいいことだ。相手を覆すような根拠や理由なんて片手にも持ってないけど、でも、誰かがそう言っていた気がする。
考えることは、いいことだ。出しっ放しの布団に丸くなって考える。世界のこと。呼吸のこと。空気のこと。届かない未来のこと。
日常という、神秘的な箱のなかからひとつ、ものを取り出そうと僕は考える。